あまり役に立たないけど知っておいて損はないこと 1
まえがき
「非圧縮」もしくは「可逆圧縮」のコーデックを使えば、書き出し・読み込み・書き出し……を何度繰り返しても「画質が劣化しない」と思われがちです。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
カラーサンプリングを 4:4:4 から 4:2:2 に変換すると、色解像度が低下することはよく知られていると思います。
それでは、非圧縮の4:2:2の映像を同じ非圧縮の4:2:2で書き出すとどうなるのか?
その答えは、編集ソフトの設計によって変わります。
編集ソフト内部の信号処理については、ほとんど公開されていません。そのため挙動からの推測となりますが、ソフト内部で扱われるカラーサンプリングや、色差信号のダウンサンプリングのアルゴリズムの違いが影響していると考えれます。
このページでは、
- Adobe Premiere Pro v.25.0
- Blackmagic Design DaVinci Resolve v19.1
- Grass Valley EDIUS v11.12.15602
(いずれもWindows 11環境)
これら3つのソフトで検証します。
検証するコーデックは、「非圧縮 YUV 10 ビット 4:2:2 (Y210)」です。
このページの内容は、様々な設定や条件を網羅したものではありません。あくまでも一例に過ぎませんので、参考にされる場合にはご自身のワークフローで十分に検証してください。
検証の手順
検証用の素材として使用した画像を、画像1に示します。
この静止画(1920 × 1080, 16 bpc, PNGファイル)をPremiere Proに読み込み、「非圧縮 RGB 10 ビット 4:4:4 (R210)」で書き出した 1920×1080 29.97fps 1秒のAVIファイルを、元素材として使用しました。
画像1 の中央部分 200 ピクセル四方を、「ニアレストネイバー法」で400%に拡大したものが、画像2です。
この中央のグラフィックが、非圧縮 4:2:2 書き出しでどのように変化するか、そして非圧縮 4:2:2 のコーデックで読み込み・書き出しを繰り返すとどうなるか、調べてみます。
Adobe Premiere Pro v.25.0の場合
画像3は、非圧縮 4:4:4 のオリジナル画像と、非圧縮 4:2:2 で書き出した1世代目の画像を比較したものです。
4:2:2 への色信号のダウンサンプリング時に隣接するピクセルの色情報もミックスされ、色の境界が滑らかになります。「荒くなる」というよりは「滲む」方向に変化します。
次に、1世代、2世代、3世代、そして10世代の画像を比較してみます。
世代を重ねるにつれ、色のにじみが増加してゆくことがわかります。
4:4:4から4:2:2への変換時に隣接ピクセルの色情報を参照して混合することから、読み込み・書き出しのたびに行われる4:4:4と4:2:2の相互変換が非可逆となり、色の滲みが増加してゆくと考えられます。
DaVinci Resolve v19.1の場合
画像5は、非圧縮 4:4:4 のオリジナル画像と、非圧縮 4:2:2 で書き出した1世代目の画像を比較したものです。
Premiere Proと同様の変化が見られます。
次に、各世代の画像を比較してみます。
Premiere Proと同様に、世代を重ねるにつれて色のにじみが増加してゆくことがわかります。。
EDIUS v11.12.15602の場合
画像7は、非圧縮 4:4:4 のオリジナル画像と、非圧縮 4:2:2 で書き出した1世代目の画像を比較したものです。EDIUSの場合、4:4:4の素材を読み込んで編集で扱う時点で、4:2:2への変換が行われているようです。
色信号のダウンサンプリング時に隣接ピクセルの情報は参照されず、単純に間引いたような結果となります。「滲み」はないものの、色の境界に偽色が目立ち、「荒くなる」方向に変化します。
次に、各世代の画像を比較してみます。
1世代目で色解像度が落ちて以降は、書き出しを繰り返しても変化がみられません。EDIUSの内部処理が4:2:2であり、4:4:4と4:2:2の相互変換が繰り返されないことが、その要因と考えられます。
いずれにしても、「書き出しを繰り返しても劣化しない」と考えて良さそうです。
番外編: ProRes 444 の場合 (Premiere Pro)
番外編として、非可逆圧縮の4:4:4 コーデックである ProRes 444 をPremiere Proで用いるケースを検証してみます。
画像9は、非圧縮 4:4:4 のオリジナル画像と、Apple ProRes 444 で書き出した1世代目の画像を比較したものです。
画像全体を見ると、特に実写部分で非可逆圧縮によるアーティファクトが見られますが、4:2:2 で書き出した画像で見られるような色の滲みや偽色は発生しません。
次に、各世代の画像を比較してみます。
世代を重ねるごとに非可逆圧縮によるアーティファクトが増えてゆきますが、色の境界部分の滲みや偽色は見られません。
あとがき
結果だけ見ると、非圧縮4:2:2で書き出しを繰り返しでも劣化しないEDIUSの方が技術的に優れているように見えるかもしれません。しかし、パイプラインを通して4:2:2で処理するのが適切か、もしくは4:4:4での処理が適切かということは、状況によりけりです。
4:4:4から4:2:2への変換時のダウンサンプリングについては、隣接ピクセルを参照・混合する方法の方が、視覚的に良い結果が得られることが多いと思います。
いずれにしても、良いか悪いかということではなく、映像を扱う技術者としては使用する環境の特性を理解しておくことは重要だと思い、本ページを作成しました。
参考資料 EDIUS内部のカラースペース考察
EDIUSの内部処理は 4:2:2 でおこなわれているようで、素材・書き出しともに 4:4:4 のコーデックを用いても色解像度は 4:2:2 制限されます。
上記検証の通り、EDIUSで非圧縮 YUV 4:2:2 のコーデックで繰り返し書き出した際には変化が見られませんでしたが、非圧縮 RGB 4:4:4 のコーデックで同様の検証を行うと、書き出しを繰り返すことで色の輪郭に変化(わずかな膨張)が見られました。
※画像12 下部中央の緑色の「A」の上部の隙間の埋まり具合がわかりやすいです。
機材協力:くつした企画