LUMIX GH4 使用記
V-Log Lを試す その2

コントラストが高めの作品制作には要注意!

2015.11.8作成

V-Log LとシネライクD

有償アップグレードによりGH4に追加されたV-Log L。VARICAM 35に搭載されたV-Logに対して、V-Log Lはフォーサーズセンサー向けのLogカーブという位置付けです。しかし、V-LogとV-Log Lのカーブ特性は同じであると公表されています。その特性から、8bit収録で用いるとグレーディング後の階調の滑らかさに悪影響が出ることが考えられます。

私の用途では4Kで作品を仕上げる必要性がなく、FHD仕上げすることになります。4KからFHDへのダウンコンバートについて、Panasonicが公開している資料に以下のような興味深い記述があります。

さらに、4K/UHD映像を1080HDにダウンコンバートすると、比例して色解像度が向上し、ビット深度も顕著に高くなるという優れた利点がある。

ーー中略ーー

つまり、3840×2160画素、8ビット、4:2:0のカラーフォーマットで記録した映像を1920×1080画素、10ビット、4:4:4対応の映像に後から変換できるのだ。

引用元:Panasonic AG-DVX200 TECH BRIEF 4K撮影のメリット/バリー・グリーン 著
(http://panasonic.biz/sav/dvx4k/pdf/ag-dvx200_tech_brief_vol1_jp.pdf)

この資料はAG-DVX200向けのものですが、GH4にも当てはまります。また、この理屈は映像技術者の間では以前から知られているもので、目新しいものではありません。しかし私の経験上、4K 8bit 4:2:0の映像を縮小してFHD 10bit 4:4:4に変換しても、階調に限っては初めからFHD 10bit 4:2:2で記録した映像には到底及ばないと考えています。せいぜい、バンディングの境界が滑らかになる程度だと思います※1。しかしせっかくなので改めて検証する価値はありそうです。

GH4には、シネライクDと呼ばれる設定も用意されています。メーカーの説明によれば、映画感覚の映像に仕上げるガンマ補正が働き、ダイナミックレンジを優先する設定とされています。シネライクDもまた、カラーグレーディング前提の設定です。古くはDVカメラにも採用されていたもので、比較的低いコントラストで収録されます。8bit収録でグレーディング前提の収録を行う際には、V-Log LよりもシネライクDの方が好ましい結果が得られるかもしれません。

そこで今回、4K23.98p 8bit 4:2:0収録素材をFHDにダウンコンバートした映像、FHD23.98 8bit 4:2:2収録した映像、FHD23.98p 10bit 4:2:2収録した映像の比較・検証を、V-Log LとシネライクDで行ってみました。

※1 色解像度や鮮鋭度の向上、ノイズ低減などの効果は期待できます。

検証の手順と結果

4K23.98pに設定したGH4に、HDMI→SDI変換器を介してATOMOS SAMURAIを接続しました。HDMI出力は4Kダウンコンバート1080pとし、8bitと10bitそれぞれの設定でSAMURAIにてProRes 422 HQ収録しました。HDMI出力を8bitに設定しているときには、カメラ内SDXCカードにも同時記録を行いました。

それぞれの映像の呼び方を、以下のように略して記述することにします。

それぞれの素材をDaVinci Resolve 12に読み込み、FHD解像度のタイムラインに載せました。グレーディング前と2種類のグレーディング済みの映像をFHD解像度のProRes 422 HQで出力し、映像を比較します。

動画から切り出したの画像を以下に並べます。掲載の都合上、40%(768x432)に縮小したjpeg画像となっております。

まずは、V-Log Lで収録した映像です。

画像1 V-Log L収録素材(4K H.264)をグレーディングせずにFHD解像度で出力した映像

画像1は、V-Log L収録素材【4K8bitDC】です。グレーディング前の映像は、Web用に書き出した静止画では見分けがつかないので、【FHD8bit】と【FHD10bit】は割愛します。

V-Log Lの各収録素材に対して、簡単なカラーグレーディングを施してみます。夕方に収録した素材なので、夕焼けを強調して暗めのトーンに仕上げました。グレーディング済みの映像を、以下に掲載します。

画像2 V-Log L収録素材(4K H.264)をグレーディングし、FHD解像度で出力した映像

画像3 V-Log L収録素材(FHD 8bit ProRes 422 HQ)をグレーディングした映像
画像4 V-Log L収録素材(FHD 10bit ProRes 422 HQ)をグレーディングした映像

画像2〜4は、全く同じ設定のグレーディングを施しています。画像2【4K8bitDC】と画像3【FHD8bit】の空の部分には、うっすらとバンディングが確認できます。この撮影条件とグレーディングでは、4KからFHDにダウンコンバートすることによる階調の増加は望めないことがわかります。

画像4【FHD10bit】は、十分なクオリティを保っているように見えます。

動画を見た印象で画質が良い順に並べると、

【FHD10bit】 >> 【FHD8bit】 > 【4K8bitDC】

です。

次に、明部のコントラストをかなり高めにしたグレーディング結果の映像を掲載します。

画像5 V-Log L収録素材(4K H.264)を高いコントラストになるようグレーディングし、FHD解像度で出力した映像
画像6 V-Log L収録素材(FHD 8bit ProRes 422 HQ)を高いコントラストになるようグレーディングした映像
画像7 V-Log L収録素材(FHD 10bit ProRes 422 HQ)を高いコントラストになるようグレーディングした映像

この撮影条件とグレーディングでは、4K 8bit収録素材をFHDに縮小することでFHD 10bitに匹敵する品質になるという説が成り立たないことがわかります。画像5【4K8bitDC】と画像6【FHD8bit】は、どちらも実用に適さない位にバンディングが発生し、破綻しています。

画像7【FHD10bit】も、階調の破綻は少ないものの、高輝度部分の近辺にノイズが目立つようになりました。

 

それでは次に、シネライクDを用いて撮影した映像の検証をしてゆきます。

画像8 シネライクD収録素材(4K H.264)をグレーディングせずにFHD解像度で出力した映像

画像8は、シネライクD収録素材【4K8bitDC】です。シネライクDによる撮影素材は、V-Log Lの素材より1絞りアンダーの露出設定となっています。V-Log L素材をグレーディングした画像2〜4の映像に似せるように、シネライクDの映像をグレーディングした結果を以下に掲載します。

画像9 シネライクD収録素材(4K H.264)をグレーディングし、FHD解像度で出力した映像

画像10 シネライクD収録素材(FHD 8bit ProRes 422 HQ)をグレーディングした映像

画像11 シネライクD収録素材(FHD 10bit ProRes 422 HQ)をグレーディングした映像

画像9〜11は、全て大きな破綻は無いように見えます。よく見てみますと画像11【FHD10bit】が一番滑らかでスッキリとした映像なのですが、画像9【4K8bitDC】と画像10【FHD8bit】も、実用的な品質を保っているように見えます。

次に、V-Log L素材を高コントラストにグレーディングした画像5〜7の映像に似せるように、シネライクDの映像をグレーディングした結果を掲載します。

画像12 シネライクD収録素材(4K H.264)を高いコントラストになるようグレーディングし、FHD解像度で出力した映像
画像13 シネライクD収録素材(8bit ProRes 422 HQ)をグレーディングした後の画像
画像14 シネライクD収録素材(10bit ProRes 422 HQ)をグレーディングした後の画像

画像12【4K8bitDC】では、空にバンディングが見え始めました。8bitの限界のほか、H.264圧縮の影響も大きいと考えられます。画像13【FHD8bit】にもバンディングが認められますが、画像12【4K8bitDC】よりは目立ちません。

画像14【FHD10bit】にもわずかにバンディングが見え、ノイズも目立つようになりましたが、作品次第では許容範囲といえそうです。

今回の検証についての雑感

V-Log L収録を安心して使うためには、外部レコーダーによる低圧縮率10bit記録が必要になると感じました。、軟調に仕上げる作品であればV-Log Lを8bit収録で使用してもメリットがデメリットを上回る可能性があります。いずれにしても、十分にテストを行ってから本番で使用するべきだと思います。

4K23.98p 8bit 4:2:0収録素材をFHDにダウンコンバートするとFHD 10bit 4:4:4相当になるという説は、どのような場面でも成立するものではないことがはっきりしました。ノイズの減少や鮮鋭度の向上などの効果はありますが、ビット深度の向上は期待しない方が良さそうです。

シネライクDはグレーディング前提として8bitでも無難に使用できるので、演出上良い効果が得られそうであれば積極的に使用して良さそうだと感じました。

誤解を恐れず表現すると、カラーグレーディングは撮影素材から情報を「捨ててゆく」作業です。撮影素材が10bitやそれ以上の階調を持っていれば、ある程度情報を捨てても十分な情報が残ります。しかし8bitの撮影素材の場合は、情報を捨てることで目に見える情報不足が発生し、それがバンディングなどとなって露呈します。

Logは広いダイナミックレンジを詰め込む特性なので、結果的にグレーディング時に捨ててしまう情報も多くなってしまいます。撮影時に必要な情報を吟味、つまりピクチャープロファイルなどの設定を使用して完成系に近い映像に仕上げて収録することができれば、グレーディング時に捨てる情報が少なくなり、8bit収録でも高い品質を維持できます。

とはいえ、撮影時に映像のトーンを作りすぎると、ポスプロ処理で「やっぱりトーンを変えたい」となったときに修正が効きづらくなることもあります。それに対する解決策がLog収録なのですが、8bit収録では今回の検証のように破綻が目立つ結果になる場合があります。

消極的な発想かもしれませんが、GH4のカメラ内SDカード記録を前提とした場合、撮影時にできるだけ映像のトーンを完成系に近づけて収録するか、無難にシネライクDもしくはスタンダードやナチュラルなどの設定で収録した方が、大きな失敗はせずに済むように思います。

機材協力:くつした企画

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