LUMIX GH5Sで自主制作映画
超低予算(無予算)向けのワークフロー
収録モードの決定と記録メディアの準備
収録モードの決定と記録メディアの準備
モバイルフレンドリーに対応すべく、調整中です。レイアウトの不具合や、画像の差し替えミスなどがあるかもしれませんが、ご了承ください。(2019.5.6)
※6月30日、デュアルネイティブISO値「高」設定時の注意点と、ファイル名の管理について追記しました。
技術の進歩のおかげで、家庭用の4Kテレビや4Kビデオカメラが10万円を切る価格で入手できる時代になりました。その気になれば、劇場公開映画と同じDCI4K(4096x2160) 24pで自主制作映画を制作することも、夢ではない時代です。
LUMIX GH5Sの導入を機に、自主制作団体で使用してゆくためのワークフローを考えてみました。
カメラの性能を十分に生かし、ポスプロ作業でカラーグレーディングすることを念頭に置き、4K 10bit V-Log L収録を基本に考えます。その場合、ALL Intra 400MbpsとLong GOP 150Mbpsの、2つの記録形式から選ぶことになります。
ALL Intra 400Mbps は Long GOP 150Mbps の約2.7倍のビットレートですが、Long GOP は ALL Intra よりも圧縮効率が良いので、単純に「ALL Intra 400Mbps の方が高画質である」とはいえません。
今回、ATOMOS NINJA ASSASSINを併用して、ProRes 422 HQ、ALL Intra 400Mbps、Long GOP 150Mbpsの3つの記録方式を比較し、どの程度品質に差が出るのか調べてみました。
一般的に圧縮が難しいとされる波立つ川面など、いくつかの映像をV-Log Lで収録しました。各素材をDAVINCI RESOLVE STUDIO 14(カラーサイエンスをColor Managedに設定)にインジェストし、V-Gamut/V-LogからRec.709 Gamma2.4に変換して、DELLの27インチ4KモニターとSONYの17インチFHD有機ELモニター(4Kの中央をクロップ)で確認しました。
目を皿のようにして確認すると、ProRes収録の映像が幾分シャープでカメラノイズと思われる粒状感が比較的よく再現されているものの、圧縮によるブロックノイズやモスキートノイズははいずれの記録モードでも目立って見えることはなく、ほとんど違いは無いと言っても過言ではありませんでした。
画像2と画像3は、DAVINCI RESOLVE STUDIOから16bit TIFFで書き出した画像を元に作成しています。
次に、記録メディアにかかるコストの面から考えてみます。1回の撮影で40〜60分程度収録することを想定し、余裕をもたせて120分程度収録できるようSDXCカードを用意するとします。また、バックアップを含めて正副2枚のカードに同時収録します。
毎回撮影を終えた後は、HDDなどにデータをコピーし、SDXCカードは消去して再利用する前提です。
※価格は2018年6月28日 ヨドバシ・ドット・コムにて調査。ポイント還元、カメラ同時購入割引などのサービスは考慮していません。いずれも税込価格です。
ALL Intra 400Mbps収録に対応できるSDXCカードは比較的高価なので、両者のコストは実に7倍ほどの差となります。撮影後のデータバックアップや編集作業についても、ALL IntraはLong GOPの約2.7倍のストレージ容量が必要になります。
ALL Intraは再生負荷が比較的軽いはずですが、検証中はほとんどそのメリットを感じませんでした。画質の差が僅かであることをふまえると、コスト増となるALL Intraを超低予算自主制作で使うメリットはほとんど無いと判断し、Long GOP 150Mbpsを常用することにしました。
なお、市場に出回るSDカードの中には、粗悪品も紛れ込んでいるようです(特にネット通販)。大事な撮影に使うSDカードは、有名メーカーの正規品を、信頼できる販売店で購入するべきであることは、言うまでもありません。私は主に、ヨドバシカメラオリジナルの無期限保証のサンディスク製品を使用しています。ネット通販等で入手できる「並行輸入品」と比べると割高ですが、店頭での複数枚同時購入・カメラ同時購入値引きなどを利用することで、ある程度価格差を抑えることができます。
前述の通り、GH5Sには2枚のカードに同時記録する機能がありますので、正副2枚のカードに収録することにします。不注意でSDカードを壊してしまったり、調子の悪いカードリーダーやウィルス感染したパソコンなどが原因でSDカード内のデータが壊れた場合にも、撮影データの完全消失という最悪の事態を防ぐことができます。
慌ただしい撮影現場で、使用するSDカードを間違えないよう、画像4のように各カードに番号や正副の種類を記載しておくと便利です。
ただし、シールなどを貼ることでSDカードの厚みが増すと、カメラ本体やカードリーダーへの挿入時に引っかかるなど、トラブルの原因となる場合があります。私が使用している機器で確認した限りでは、ラベルプリンターのシールを貼っても問題ありませんでした。貸出用途など、使用する機器を特定できない場合は、シールを貼らずにSDカードに直接油性ペンで書き込む方が安心です。
また、収録前のSDカードは正副ペアでケース保管した方がわかりやすいのですが、収録後のカードは正副別々のケースに入れて、それぞれ別のスタッフが持ち帰る方が安全です。万が一の紛失の際にも、正副両方を失うリスクを軽減できます。SDカードのデータをHDDなどにコピーする際も、正副それぞれを異なるパソコンで扱う方が安全です。
なお、2枚のカードに同時収録したテスト撮影素材のハッシュ値(CRC32)を確認したところ、画像5のようにビット単位で完全に同一であることが確認できました。撮影直後に1枚をポスプロ担当者に渡し、もう1枚をアーカイブ担当者に渡すといった運用も、問題なくできると考えられます。
【2019.5.6追記】しばらく運用した結果、複数のクリップにてハッシュ値が異なるケースがありました。各スロットで異なるメーカーのカードを使用していたのですが、それが原因なのか否かはわかりません。
GH5Sは、ファイル名の3文字を変更することができます。編集の際、一つのプロジェクト内に同じファイル名の素材が複数あるとトラブルの元なので、ファイル名の重複はできるだけ避けたいものです。
任意の3文字を、撮影月日や作品の頭文字と撮影日数で構成するなどし、番号をリセットしてもファイル名が重複しないように工夫します。
例1: 任意の3文字を撮影月日にする場合、10月以降は月の数字をA,B,C,D…と続けてゆく。
1月20日→120, 10月10日→A10, 翌年の1月20日→D20
例2: 任意の3文字を、作品名「TEST」の頭文字Tと撮影日数を組み合わせると、撮影日数99日目まで対応できる。
撮影1日目→T01, 撮影99日目→T99
GH5Sを実際の作品制作に使用するにあたり、各ISO値の映像品質を比較するテストを行いました。すると、ひとつ不思議な現象が見られました。デュアルネイティブISOを「高感度」に設定した際、ISO1250よりもISO1600の方が(V-Log L収録ではISO2500よりISO3200の方が)、ノイズが少なく綺麗な映像が収録できるのです。
念のためメーカーに問い合わせたところ、デュアルネイティブISOが「高感度」のとき、SNR(Signal to Noise Ratio, 信号対雑音比)特性が最も高くなるISO値は、
V-Log L / HLG: ISO3200
V-Log L / HLG 以外: ISO1600
とのことでした。つまり、必ずしもISO値とノイズの量が連動(比例)しないということです。
上記ISO値未満の値で撮影するとSNR特性がやや悪くなりますが、極端にノイズが増えるわけではないので、絞りを開けたい場合などにISOを上記値未満に下げるのは、方法としては間違っていないと思います。しかし、ノイズを少しでも減らしたいという理由で上記ISO値未満に設定するのは逆効果なので、注意が必要だと思います。
なお、デュアルネイティブISOを「低感度」に設定した場合は、理論通りISO値が低いほどSNR特性が高くなるので、一番低いISO値が最もノイズが少なく、ISO値を上げるにしたがってノイズも増えてゆきます。
もうひとつ、注意が必要なのは、デュアルネイティブISO「低感度」と「高感度」の使い分けです。デュアルネイティブISO「低感度」と「高感度」の両方で、V-Log L / HLGではISO1600、それ以外ではISO800を選択できます。両者を比較すると、「高感度」の方がノイズが少ない映像となります。
デュアルネイティブISOを「低感度」にしてISOを高い値にするよりは、思い切ってデュアルネイティブISOを「高感度」にして、ISO1600(V-Log L / HLG の場合はISO3200)まで上げてしまった方が、高い品質の映像が得られると考えられます。
ちなみに、ベース感度より低い感度、つまり「減感」してV-Log L収録すると、高輝度側のダイナミックレンジが狭くなるのではないかという心配が生まれてきます。しかし、GH5Sの場合は「低感度側の拡張ISO」ではない限り、どの感度で撮影してもダイナミックレンジは変わらないそうです(メーカー確認済み)。
例えば、デュアルネイティブISOを「低感度」に設定したときのV-Log L収録のベース感度はISO800ですが、これをISO320に変更してもダイナミックレンジは狭くならず、ノイズが少ない映像になります。同様に、デュアルネイティブISOを「高感度」に設定したときのV-Log L収録のベース感度はISO5000ですが、これをISO3200に変更してもダイナミックレンジは狭くならず、低ノイズの映像が得られます。
そういった意味では、「ベース感度」という概念にこだわらずにISO値を選択する方が良いと思います。
次は、撮影データのコピー・バックアップについてです。
機材協力:くつした企画