DC-GH6ライン入力の罠
〜「録音ゲイン切替」に注意〜
設定できない「ゲイン切替」が有効の謎
設定できない「ゲイン切替」が有効の謎
このページでは、「DC-GH6 ファームウェアVer. 2.2」で検証した内容をご紹介しています。今後のファームウェアアップデートで、仕様変更があるかもしれません。
※2023年7月11日に「ファームウェアVer. 2.3」が公開されましたが、本ページで取り上げている件に関しては変更は無いようです。
【2023.7.20更新】
当初(2023.7.7)、パナソニックより「仕様」であるとの回答を頂いておりましたが、検証結果をもとに改めて問い合わせをしたところ、後日(2023.7.14)「前回の回答は誤りで、仕様ではなく仕様不備」である旨、回答がありました。
本来、「ライン入力時は、マイク入力のゲイン設定は無効になる」という動作が、正しい仕様とのことです。
以下の本文では、最初にパナソニックから頂いた「仕様」であるという回答を前提で書いておりますこと、ご了承ください。
※ファームウェアの修正が完了するまで、ライン入力で最良の録音結果を得るためには 『「ライン入力」に切り替える前に「録音ゲイン切替」を「標準」に切り替える必要がある』ということは、変わりありません。
まず結論です。
『DC-GH6本体のマイク端子をライン入力として使用する場合、「マイク端子」設定を「LINE」に切り替える前(もしくはマイク端子にプラグを接続する前)に、「録音ゲイン切替」を「標準」に切り替えましょう。』
その理由について、詳しく説明してゆきます。
DC-GH6にて業務用音声機器から平衡ライン信号(基準出力レベル:+4dBu)を受ける場合、純正品として用意されている「DMW-XLR1」(基準入力レベル:0dBu, 最大入力レベル:+25dBu)を用いるのが無難です。
しかしながら、小型のフィールドレコーダーなど、不平衡かつ民生機レベルで出力される機器からの信号を受ける場合は、GH6本体のマイク端子からライン入力(基準入力 -10dBV, 最大入力+10dBV)する方が適切です。
ZOOM F3で録音しつつその出力をGH6で受けるロケに備え、ライン入出力の検証を行ったところ、全くレベルが合わない問題を発見しました。その原因が、『「マイク端子」を「ライン入力」に設定した場合、「録音ゲイン切替」の設定が不可能で設定内容も表示されないが、設定内容が記録レベルに反映される』という現象でした。
不具合(もしくは設計時に想定していなかった挙動)の可能性があると考え、「パナソニックお客様ご相談センター」にメールで問い合わせたところ、約一週間後に「仕様」であるとの返答がありました。
ここからは、この問題について具体的に説明してゆきます。まずはZOOM F3とDC-GH6の組み合わせで検証している様子(画像1)をご覧ください。
ZOOM F3のテストトーンをDC-GH6のマイク端子(ライン入力)で受けた場合、録音レベル設定を基準値の0dBにすると-9dBFSで記録されるはずです。しかし、それより12dBも低い-21dBFSで記録される状態になりました。
F3の不具合もしくは設定不備を疑い、簡易的なデジタルテスターにLchの信号を分岐して計測したところ、画像1のようにF3からは正しいレベルで出力されていることが確認できました。
「12dB低い」ということから、「録音ゲイン切替」の設定が思い浮かびました。しかし画像2のように、GH6はライン入力時に「録音ゲイン切替」が使用できない仕様になっています。
そして画像3のように、「録音ゲイン切替」の設定値が表示されるべきUI画面にも、ライン入力設定時には「録音ゲイン切替」の設定値は表示されません。
以上のように、「マイク端子」を「ライン入力」に設定した場合、「録音ゲイン切替」の操作ができないだけではなく、設定内容の確認もできません。それにもかかわらず、設定された内容が記録レベルに反映されるのが、現状の「仕様」ということになります。
この点については説明書にも記載されていますが、『[録音ゲイン切換]は使用できません』という記載は少々説明不足のように思います。実際には、『[録音ゲイン切替]は使用できるけれども、その設定内容の確認・変更はできない』ということになります。やはり、仕様としてはやや不自然な気がいたします。
[マイク端子]を[LINE]にして、外部音声機器を接続しているときは、[録音ゲイン切換]は使用できません。
引用元:DC-GH6 取扱説明書
それでは改めて、DC-GH6の「マイク端子」から「ライン入力」する際のレベルについて検証してみます。 -10dBVの不平衡出力を持つPROTECH FS305からGH6のマイク端子(ライン入力)へ信号を送り、Lchの信号を分岐してデジタルテスターに接続します。
そして、「マイク端子」の設定を「LINE」に切り替える前に「録音ゲイン切替」を操作して、「標準」と「低」の2パターンでライン入力時のGH6の記録レベルを調べた様子が、画像4です。
すでに判明している通り、「録音ゲイン切替」を「低」にすると、記録レベルが12dB低下します。
パナソニックからの回答を要約すると、ライン入力時にも「録音ゲイン切替」の設定内容が反映されるのは、「ヘッドルームを多くとり、リニアリティを確保する。」「基準レベルを-20dBFSではなく-20dBFSないしはそれ以下にとる。」という理由からとのことです。
しかしこれには疑問を感じます。まず、「基準レベルを-20dBFS」としたい場合には録音レベルを「-8dB」に設定すればOKです。
そして大きなポイントが、「録音ゲイン切替」を「低」にしても、最大入力レベル「+10dBV」は変わらずそのままということです。最大入力レベルが12dBアップして「+22dBV(約+24.2dBu)」になるわけではありません.
録音レベルを「-8dB」に設定すると、基準入力レベル「-10dBV」の信号が「-20dBFS」で記録され、 最大入力レベル「+10dBV」の信号がデジタルの最大記録レベル「0dBFS」で記録されます。つまり、「ヘッドルーム」や「リニアリティ」の面では、-8dBより録音レベルを下げるメリットはありません。
ただし、入力が「+10dBV」を超えてもアナログ入力部には多少の余裕があるようで、ひずみが増しながらもある程度はレベルが上がってゆきます。「デジタルで完全に信号がクリップするよりはマシ」という意味では、録音レベルを-9dB以下に設定する意味はあります。しかしそれにしても、-18dBまで設定できればほとんどの場合十分で、別途「録音ゲイン切替」で「低」(-12dB)を選ぶ必要性を感じません。
また、「録音レベル:0dB, 録音ゲイン切替:低」で12dB減衰させる方法と、 「録音レベル:-12dB, 録音ゲイン切替:標準」で12dB減衰させる方法では、後者の方がノイズが少ないようです。
以上の理由から、
『GH6本体のマイク端子をライン入力として使用する場合、「マイク端子」設定を「LINE」に切り替える前(もしくはマイク端子にプラグを接続する前)に、「録音ゲイン切替」を「標準」に切り替えましょう。』
という結論に達しました。
検証内容のうち、+10dBVを超える信号でひずみが発生する様子と、12dBレベルを下げる際に「録音ゲイン」を「低」にする場合と録音レベルを-12dBに設定した場合の比較を、それぞれ一部を抜粋して掲載します。
使用している計測機器やテスト信号の周波数・レベルなどなど、厳密な計測には適していないので、あくまでも簡易的な検証です。
【検証環境】
音源:YAMAHA 01V96 (OSC 1kHz) STEREO OUT ※平衡出力の「コールド」と「グランド」をショートして不平衡として使用。
信号レベルの計測:Sanwa PM11 ※確度保証周波数範囲:45〜1kHz, ACVの確度:+-(2.3% rdg+8 dgt)
検証方法:GH6で録画したMOVファイルからWAVを書き出し、「WaveSpectra」で解析。
最大入力レベル「+10dBV」を6dB上回る「約+16dBV」の信号を入力した際の様子が画像5です。「録音ゲイン切替」を「低」に設定し、「録音レベル」を「-8dB」に設定することで、記録レベルはフルスケールに対してまだ余裕のある約-6dBFSになっています。しかし記録された音声には、ひずみが発生しています。
最大入力レベル「+10dBV」を2dB下回る「約+8dBV」の信号で検証します。
画像6は、12dBレベルを下げる方法として 「録音ゲイン切替」を「低」に設定しています。画像7では、録音レベルを「-12dB」に設定しています。いずれも記録レベルは-6dBFSで、問題となるようなひずみは発生していません。
しかし、両者でノイズの量に違いがあり、録音レベルを「-12dB」に設定する方がノイズレベルは低くなります。
なお、この件については追加質問をパナソニックにお送りしているところです。私の検証に誤りがある可能性や、パナソニック側の意図として別のメリットがあるといったようなこともあるかもしれませんので、回答があり次第更新します。
機材協力:くつした企画