YouTubeの色問題?!
アップした動画の色調が変わる説を検証
-制作環境と一般視聴環境の違いを理解する-

2021.1.31暫定版公開 2021.2.1, 2.5図表追加・改稿 2.7加筆修正(未完成)

このページに記載している内容は、2021年1月下旬の状況です。加筆修正を重ねてだいぶ完成に近づきましたが、もう少し時間がかかる見込みです。文章の加筆修正のほか、波形モニターの画像の差し替えを予定しています(YPbPrからRGBへの変更、ベクトルスコープの追加)。また、ガンマについての解説は、別のページに分割しました。

YouTubeにアップした動画の色調が変わる?!

最近ネット上で、「YouTubeは自動的に色調の変換を行うため、その色調変換を打ち消すような補正を施してからアップロードしないと、制作者が意図した色調で視聴者に見てもらうことができない」という話題を目にしました。Mac環境で編集を行っている方々の間で話題になっているようです。

しかし私が検証したところ、YouTubeが自動的に色調を変換していることは確認できませんでした*1。本ページでは、その検証の様子をご紹介いたします。

*1 macOS環境でYouTube動画を再生すると、OSのカラーマネージメントにより表示γが低くなります。これはQuickTime Playerなどにおいても生じる現象であり、YouTube側の問題ではありません。

YouTube動画再生時の色調を確認する

YouTubeでは、SDR動画をアップロードする際の色空間として、HDTV放送や家庭用ビデオカメラなどなど、広く一般的に用いられている「BT.709」を推奨しています。

今回の検証も、それに従います。

SDR 動画をアップロードする際におすすめの色空間

YouTube では、SDR 動画をアップロードする際に標準の色空間として BT.709 を推奨しています。

色空間 色の伝達特性(TRC) 色域 カラー マトリックス係数
BT.709 BT.709(H.273 値: 1) BT.709(H.273 値 1) BT.709(H.273 値 1)

引用元:https://support.google.com/youtube/answer/1722171?hl=ja「アップロードする動画におすすめのエンコード設定」

検証用の映像として、「マルチフォーマットカラーバー(ARIB STD-B28)」を使用します。

信号発生器(Leader LT 443D)から10bit 4:2:2でデジタイズしたファイルを、Premiere Pro v.14.7.0 (Windows版)を用いて8bit 4:2:0 H.264のMP4に変換したものを「YouTube用原版」とし、YouTubeにアップロードしました。

画像1 検証に使用したマルチフォーマットカラーバー(YouTube動画)

Blu-rayプレーヤーのYouTube再生機能の場合

まず最初に、YouTube再生機能を備えたBlu-rayプレーヤーによる再生映像を検証します。

Blu-rayプレーヤーのHDMI出力にはHDCP(著作権保護)がかかっており、HDMI→HD-SDI変換して波形モニターに入力することが不可能であるため*2、業務用モニターによる表示と、簡易波形表示機能で観察します。

使用機材は、SONYのBlu-rayプレーヤー 「BDP-S6500*3」と、SONYの有機ELピクチャーモニター「PVM-A170」です。

画像2 検証に使用したPVM-A170(左)とBDP-S6500(右)

画像3左は、8bit 4:2:0の「YouTube用原版」のMP4ファイルをPremiere Proで再生し、DeckLinkからHD-SDI出力した映像であり、基準となるものです。画像3右は、BDP-S6500にてYouTube動画を再生した映像です。

両者を比べると、同じ色調で表示されていることがわかります。

画像3 基準のカラーバー(左)と、BDP-S6500によるYouTube再生映像(右)

画像4は、簡易波形表示を拡大したものです。YouTube動画の再生映像にも、PLUGE(Picture line-up generation equipment)信号に含まれる-2%の信号が確認できます。

画像4 基準のカラーバー(左)と、BDP-S6500によるYouTube再生映像(右)の波形表示

なお、BDP-S6500の波形表示が鈍っているのは、720p版を1080pへアップコンバートして再生*3しているためだと考えられます。

BDプレーヤーを用いたこの検証から、「YouTubeにて色調の調整は行われていない」と結論づけて良いと思います。

※2 今回用意した波形モニターTektronix WFM700は、HDMI入力が搭載されていません。

※3 SONY BDP-S6500によるYouTube再生では、720pよりも高い解像度を選ぶことができないため、検証では720p版の動画を再生しました。また、720p未満の解像度を選択すると、不必要な[BT.601]から[BT.709]への変換が行われてしまい、色調が変わってしまいました。家庭用テレビSONY BRAVIAで再生した際には、720p未満の解像度を選択しても問題は発生しませんでしたので、機器側の仕様に依存する問題であると考えられます。

Windows 10環境でのウェブブラウザによるYouTube再生の場合

次に、WindowsパソコンによるYouTube再生映像を調べてみます。パソコンのグラフィックカードのHDMI出力をHD-SDIに変換したうえで、波形モニターを用いて観察します。

使用した機材は、NVIDIAのGTX1080を搭載したパソコン(Windows 10 Pro 1909)とATOMOSのHDMI→SDI変換器(H2S)、そしてTektronixのWFM700です。また、SDI変換した信号はSONY PVM-A170にも入力し、目視でも確認しました。

パソコンのディスプレイ設定は、画像5右の通りです。

画像5 パソコンのグラフィックカード出力をSDI変換している様子(左)とWindowsのディスプレイ設定(右)

画像6左は、「YouTube用原版」をPremiere Proで再生し、DeckLinkから出力したときの波形表示です。これが基準となります。
画像6中央は、 YouTube動画をMicrosoft Edgeで再生したときの波形表示です。そして画像6右は、YouTubeをGoogle chromeで再生した時の波形表示です。

Microsoft EdgeとGoogle chromeの表示に違いはありませんでした。PLUGE信号に含まれる-2%の信号は消失しているものの、正しい色調で再生されています。

画像6 基準のカラーバー(左)とMicrosoft Edgeの再生映像(中央)、Google chromeの再生映像(右)のWFM700による波形表示(Y, Pb, Pr)

参考までに、Google ChromeによるYouTubeの再生画面と、Premiere Pro*4のプログラムモニターを並べてスクリーンショットを撮った結果も掲載します。画像からわかる通り、両方とも全く同じ色で表示されます。

画像7 Google ChromeによるYouTubeの再生画像(左)とカラーマネージメントOFFのPremiere Proの表示(右)

Windows環境を用いたこの検証でも、「YouTubeにて色調の調整は行われていない」と結論づけて良いと思います。

なお、Windowsパソコンでは多くの場合γ2.2のsRGB規格のディスプレイが使用されます。そのため、理論上はγ2.4で表示するスタジオモニターと比較して中間調が若干持ち上がって少し明るめに表示されます。

*4 Premiere ProのカラーマネージメントはOFFとし、「Rec.709の映像をsRGBモニターで見ている状態(Web用動画編集時のAdobeの推奨設定)」にしています。

macOS 10.15.7 環境でのウェブブラウザによるYouTube再生の場合

次に、MacBook Pro(Mid2012)を用いて表示を確認します。HDMI出力を、ATOMOSのHDMI→HD-SDI変換器を使用してHD-SDIに変換したうえで、波形モニターで観察します。

画像7 パソコンのグラフィックカード出力をSDI変換している様子(左)とWindowsのディスプレイ設定の様子(右)

macOSの場合は「カラーマネージメント」が働くので、残念ながら「YouTubeで色調の調整が行われているか否か」を判断することができません。これまでの検証で、YouTubeでは色調の調整は行われていないと判断して差し支えないので、ここからの検証は「macOSにおいてYouTubeのBT.709動画はどのように表示されるか」という視点で検証を進めてゆきます。

カラーマネージメントされるということは、ディスプレイのカラープロファイルが重要になってきます。本来ディスプレイプロファイルはディスプレイ自身のプロファイルを選ぶべきですが、まずはHDMI→SDI変換器を接続した際に自動的に設定された「ATOMOS H2S」というプロファイルを使用して確認してみます。

画像7右の通り、このプロファイルでは「表示γ1.961」となっています。実際には、HDMI→SDI変換された先に接続されたピクチャーモニター(PVM-A170)は表示γ2.4に設定しているので、『誤った状態』です。

画像8は、左から「YouTube用原版」をPremiere Proで再生し、DeckLinkから出力した時の波形表示、YouTubeをSafariで再生したときの波形表示、YouTubeをGoogle chromeで再生した時の波形表示です。

Safariとchromeの再生信号は、黄色と緑のレベルが本来よりも高くなってしまっています。「ATOMOS H2S」というプロファイルのカラーマトリクスが、Rec.709のそれと異なっているようです。

そして、RAMP信号の波形は直線になっており、γ値の補正はされていないようです。つまり、macOSのカラーマネージメントは、表示γ1.961のモニターが接続された場合には、BT.709の映像をγ補正なしで表示することがわかります。

画像8 各信号の波形表示 (Y, Pb, Pr)

では次に、『PVM-A170(BT.709 γ2.4に設定)に対して正しいカラープロファイル』である、「Rec.709 Gamma2.4」というディスプレイプロファイルを選択してみます。

画像9 ディスプレイプロファイルをRec.709 Gamma 2.4に設定した様子

この場合、γ2.4で表示するべきBT.709のYouTube動画を、γ2.4のBT.709のディスプレイで表示する状況なので、BT.1886に沿った考え方では「カラーマネージメントは補正を加えずそのままスルーする」のが正解です。しかし、そうはなりません。

画像10の左側は「YouTube用原版」をPremiere Proで再生し、DeckLinkから出力した時の波形表示です。そして画像10の右側は、YouTube動画をSafariで再生したときの波形表示です(Safariとchromeは同じ表示になるので、Safariのみ掲載しています)。

それぞれ上段は先ほどと同様Y, Pb, Prの波形表示で、下段はγの変化が分かりやすいようYのみの波形を表示しています。

波形を見れば明らかなように、γ値を下げる処理が加えられ、Ramp信号の波形が曲線になって膨らんでいます。

画像10 ディスプレイプロファイルをRec.709 Gamma 2.4に設定した際の波形(右上はY, Pb, Pr, 右下はYのみ) 左は比較のための元の信号の波形

この検証から、「macOSのカラーマネージメントは、BT.709の映像をγ1.961で表示する」ことがわかりました。BT.709の特性は、γ0.51のカーブに近似しますので、0.51×1.961≒1.00、つまりmacOSのカラーマネージメントは、映像を元どおりのγ1で表示する仕組みです。

そもそも、γ補正は表示デバイスの非線型特性を打ち消して線形に表示させるための補正であり、最終的に人の目の前に表示される映像のγは1であるべきですから、macOSのカラーマネージメントは極めて順当です。

BT.709とBT.1886の勧告に沿った方法は、0.51×2.4≒1.22であり、「少しコントラスト高めの映像」として表示される状態を基準とするという、ある意味邪道とも言える方法です。しかしこれがHDTV制作の基準なので、仕方ありません。

つまり、単純にmacOSのカラーマネージメントが「BT.1886」向けではないということが、Mac環境で映像制作をされている方々の間で「YouTubeの色が変わる」と言われている原因だと考えられます。

macOSのカラーマネージメントがなぜBT.709の映像をBT.1886に沿った表示にしないのかを説明した公式の情報は、残念ながら見つけられませんでした。しかし、Apple純正のディスプレイ「Apple Pro Display XDR」では、BT.1886に沿ったモードが搭載されています。

リファレンスモードについて

HDR/HD/SD ビデオなど、さまざまな種類のメディアを扱う制作現場の要件に応じて、Pro Display XDR に搭載されているリファレンスモードを使いこなせます。各リファレンスモードはそれぞれ、ディスプレイの色空間、ホワイトポイント、γ、輝度を設定します。Pro Display XDR に搭載されている各リファレンスモードについてご説明します。

--中略--

HDTV ビデオ (BT.709-BT.1886)

ITU-R BT.709 および BT.1886 の勧告に準拠した HD ビデオ制作のワークフローでは、このモードを使います。ITU-R BT.2035 で規定されている観視条件の整備を念頭に作られたモードです。

引用元:https://support.apple.com/ja-jp/HT210435Apple Pro Display XDR でリファレンスモードを使う

AppleがBT.1886の存在をきちんと把握していることが窺い知れます(Appleは映像規格の策定にも関わるので、当然ではあります)。

そしてこの引用部分には大きなヒント「BT.2035」があります。「BT.2035」はHDTV制作における視聴環境についての規格ですが、部屋の環境光についてモニターの色温度と同じ白色点の「10Lux」というかなり暗い値が指定されています。

そもそも、部屋の環境光の色温度・明るさ(とても暗い)・背景の壁の色などなど整った環境を揃えてこそのBT.1886であり、実は明るいリビングやオフィスで一般の方が視聴する環境には向いていない規格なのです。 これは画面の輝度もさることながら、「暗い環境ではγ値が高い方が人間の視覚特性上好ましく見える」ということも影響してきます。

実際に、SONYの家庭用テレビBRAVIA A8シリーズの設定で確認したところ、一般家庭のリビング向けの「スタンダード」設定では、γ値2.2がデフォルト値になっていました。暗い環境で原信号に忠実な映像を見たい時に選ぶ「カスタム」設定では、γ値2.4がデフォルト値になっています。

映像編集室においても、ポスプロではなく映像制作会社さんなどで、明るいリビングを模した住環境に近い設計で明るい部屋にしている場合には、モニターのγ設定を2.4ではなく2.2にした方が良いかもしれません。

上記検証の中でさらっと触れていたのですが、WindowsでYouTubeを見る場合も、多くの場合sRGBに沿ってγ2.2で表示されるので、実は明るい環境でテレビを見ているのと同じような状況と言えます。

Macはγ1.961で表示されるのでより明るい印象の映像になるのですが、明るい環境で視聴する場合には、その方が制作者の意図に沿った感覚に近い映像として見てもらうことができるという考え方もあります。

くりかえしになりますが、macOSのカラーマネージメントにおけるBT.709映像の表示に関わるAppleの公式な見解は見つけられなかったので、ここまで私の想像を折り込みながら記述した内容は、Appleの考えとは全く異なるものかもしれません。

しかし、理屈の上ではそれほど筋から外れた考え方ではないと思います。

 

結論

YouTubeは色調の変換を行っていないので、推奨色域のBT.709の映像をアップロードするときは、そのままアップロードした方が良いと思います。

Macで再生すると許容できる以上に暗部が明るくなってしまうと感じられる場合には、Mac環境での再生向けに予めγ値を高くした映像をYouTubeにアップすることも選択肢には入ると思います。その場合も、γ2.4になるようγ2.4÷γ1.961≒γ1.22の補正をかけるか、γ2.2程度になるようγ2.2÷γ1.961≒γ1.12程度に抑えるべきか検討の余地があると思います。

Mac以外の環境を使用している視聴者にも、YouTubeを高画質で見たいと考え方はある程度存在すると思います。Macでの視聴用にγ補正をかけた動画をアップするくらい画質に拘っている場合には、Mac以外の環境向けに「無補正の通常版」もアップする必要があると思います。

しかし、『家庭用テレビの多くががスタジオモニターとは異なる色調で表示されている』ことと同じく(むしろそれ以上に)、YouTube視聴環境のディスプレイの性能差などによる色調のばらつきはかなりあると思います。

時々、事務用パソコンや廉価なノートパソコンで動画を見ると、絶望的に色彩表現が悪くて悲しい気持ちになります。

 

本ページの作成過程でガンマに関する情報も入れていたのですが、煩雑になりすぎたので別ページに分けました。まだ不完全ですが、ひっそり公開しております。

映像信号のガンマとは?-鋭意制作中-

余談

Macでの検証時、興味本位でいくつかRec.709に関係しそうなディスプレイプロファイルを試していたところ、Sonyの家庭用テレビ「BRAVIA (KJ-55A8H)」を接続した際に作成されたディスプレイプロファイル「SONY TV **00」を選択すると、わりとオリジナルの信号に近い出力が得られることがわかりました(完全に同一ではありません)。

画像11 ディスプレイプロファイルをSONY TV **00に設定した様子

 

画像10 ディスプレイプロファイルをSONY TV **00に設定した際の波形(右上はY, Pb, Pr, 右下はYのみ) 左は比較のための元の信号の波形

この結果は非常に重要な意味を持ちます。macOS環境であっても、SONYのBRAVIAをディスプレイとして使用している環境では、「YouTube動画の色調が変わる」という現象が発生しないのです。

しかしこれは、γ2.4(もしくはγ2.2)がデフォルト値になっているモニターが使用されているにもかかわらずγ1.961のモニターであると誤認識している結果なので、BT.709の動画以外は、写真やWEBサイトからユーザーインターフェースまで、何もかも間違ったγ値で表示されている状況です。Macにディスプレイを接続して、そのディスプレイ用のカラープロファイルを選んでおけば大丈夫、とは限らないことがわかります。

ちなみに、PVM-A170を直接Macに接続した場合、自動設定されたプロファイルはPVM-A170の一番色域が広い「ネイティブ」モードに合わせた設定になるようです。複数の色域・γ設定のあるモニターを使用するときには注意が必要です。

 



機材協力:くつした企画

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