SONY ZV-E1 導入記
〜VLOGCAM™で自主制作映画〜
コストと信頼性と性能の間の葛藤
コストと信頼性と性能の間の葛藤
Panasonic DC-GH6 の「ストリーキング」問題がきっかけでスタートした、次期カメラ選び。候補はAPS-C (Super 35mm) サイズセンサーを搭載したSONY プロフェッショナルカムコーダー Cinema Lineシリーズの FX30 にほぼ決まっていたのですが、紆余曲折あって 35mmフルサイズセンサーを搭載したSONY VLOGCAM™ ZV-E1 を導入しました。
今このページをご覧になられている方々には、ZV-E1 について一から説明する必要はないと思いますので、いつも通り、私個人の視点で書き進めてゆきます。
商業映画ではない小規模な自主制作映画とはいえ、キャスト・スタッフの方々には貴重な時間を割いて参加して頂いているので、技術トラブルで撮影が中断するといったことは避けなければなりません。
限られた予算の中で、冷却ファンの搭載やデュアルスロットによるバックアップ収録といった信頼性の高さを重視して、Cinema Lineシリーズ中最廉価の FX30 が最良な選択であると考えました。
ZV-E1 を導入した今でも、その考えに変わりはありません。それでも ZV-E1 を導入した決め手は、「低画素35mmフルフレームセンサーによる、高感度・低ノイズ・広いダイナミックレンジ」と「AIを使用したオートフォーカスなど、優れたオート機能」です。
2024年度に制作予定の作品は、その演出の都合でかなり暗い環境での撮影が予想されました。そのため、少しでも高感度でノイズが少ないカメラであることが望まれました。
高画素&ローパスフィルターレスセンサーからの縮小による高精細な映像も魅力的ではありますが、E1の映像を見る限りでは低画素&ローパスフィルターでも十分高精細な映像を得ることができていると感じています。
自主制作映画とは無関係なのですが、転職に伴い、今までとは毛色の違う「InstagramなどSNSにアップする動画作成」の仕事が増えてきました。
できるだけ手間をかけずに手軽に見栄えの良い映像をサクッと短時間で撮りたいときなどは、「ZV-E1」がとても良い仕事をします。
浅すぎる被写界深度を避けるためにマイクロフォーサーズカメラを愛用していた経緯があるものの、時々「背景をもっとぼかしたい」という要望があったのも事実です。
美しいぼけ足の映像を撮るには、それなりに高価なF値の明るいレンズが必要になりますが、取り急ぎ本体と同時購入した解放F値4.0の標準ズームレンズでも、自然なボケ感のある映像を撮ることができて、概ね好評です。
画像1の通り、ZV-E1 本体とズームレンズSEL24105G のほか、複数のアクセサリーを追加しています。
まずは、SmallRig製のゲージ。いくらシンプルな機材構成にしようとしても、映像の送信機や音声周りの機材など、カメラに取り付けたい機器がいくつかあります。
Panasonic GH5SとGH6ではSmallRig製品を使用していたので、今回もSmallRig製品を選びました。
そしてもう一つ重要なのが、XLRアダプターキットのXLR-K3Mです。当初は予算の都合もあり、すでに所有していた「ZOOM F3」で代用するつもりでした。
高品質な音声収録が要求される場面ではF3で32bit収録したものをマスターとし、そこまでの品質を求められないものはF3のライン出力をZV-E1で受けて収録して使う、という構想です。
しかしながら、余裕がないワンマン撮影の現場での安心安全確実な音声収録のためには、カメラ側でダイレクトにXLRを受けられることは言うまでもなく重要なことです。本番前の機材テストでも不安が残ったため、初めての同時録音有りの撮影への投入直前に、急遽XLR-K3Mを導入しました。
画像2は、初めての同時録音有りの撮影現場の様子です。仕込みのピンマイク1波(audio-technica ATW-1701 + ATW-899)、ガンマイク1本(Sennheiser MKH-60)の計2系統の収録なので、ミキサーや外部レコーダを併用せず直接XLR-K3Mに接続しました。
実は本番数日前のテストで、ひとつ問題が生じていました。XLR-K3Mの延長アダプターがゲージの突起と干渉して奥まで差し込みできず、動作しないのでした。止むを得ず、ゲージへのハンドルの取り付けを諦め、XLR-K3Mを直接マルチインターフェースシューに取り付けて使用しました。
画像3の通り、干渉している箇所はほんの少しの突起部分です。ホビー用のヤスリで容易に削り取ることができましたので、現在は取手を取り付けて運用しています。
ZV-E1の導入直後、業務で使用するにあたりS-Logや各ピクチャープロファイルの映像を確認している最中、偶然音声の異変に気づきました。配線の都合で編集機器のモニター系統に繋いだため、整音時に使用している音声計測機器にも信号が渡っていたのですが、何気なくその画面を見てみると20kHz付近に異常なピークが発生していたのです。
当初、付近の編集機器やパソコンなどの電子機器からのノイズかと思ったのですが、屋外で収録した素材にも混入が見られ、「内蔵マイク」使用時のみに21633Hzの連続したノイズが入ることがわかりました。
ほとんどの人には聞こえない周波数であり、ブイログ用途では問題になることはほぼないと思います。しかしながら、本格的な制作で用いる場合には、聞こえないとはいえ余計な音が入っていることは好ましくなく、コーデック通過時にノイズの原因になったり、QC (Quality Control) ツールでモスキート音のNG判定となる可能性も否定できません。
何らかの事情で内蔵マイクの音声を番組やVPで使用する場合には、ポスプロ時にLPFを入れてカットしておいた方が無難だと思います。
ちなみに、XLRアダプターキットXLR-K3MやショットガンマイクロホンECM-B10を併用した際には、このノイズは発生しません。
カメラ購入当日、初めてのテスト撮影で赤い輝点「ホットピクセル」がみつかりました。
撮影前の電源投入時に「ピクセルマッピング」の実行を促されたのでピクセルマッピングは実行済みでしたが、それでも発生してしまったことには少し驚きがあり、撮影中のカメラモニターでは気づくことができなかったので今後の使用に少し不安が残る船出でした。
あらためてピクセルマッピングを実行してから撮影したところ、この赤い輝点は消えました。
ZV-E1はメカシャッターを搭載しておらず、ピクセルマッピングを自動実行させることができませんので、撮影前に意識的にピクセルマッピングを実行するようにしています。
それ以来、テスト撮影・本番撮影共にホットピクセルの問題は見つかっていないので、購入直後特有の現象か、偶発的な現象だった可能性が高いものと考えています。
正直なところ、「本当はFX3が欲しいけどお金の都合でZV-E1で我慢」といった状況であることは否めません。
カードスロットが1つしかないことや放熱の問題の他にも、Cine EIを搭載していない(減感したいことはしばしばあるので、減感用LUTを仕込めば代用できなくはないものの少し不便)ことやLog撮影時のHDMI出力解像度の制限など細かい部分で「業務使用に向いていない部分」は多々あります。
しかし、本文でも触れた通り画質はFX3と遜色がなく、優れたオート機能を搭載しているメリットもあり、撮るのが楽しいカメラです。
私個人的には、初めての35mmフルサイズ一眼、そして初めてのSONY製一眼カメラの導入ということで、久しぶりにドキドキワクワクのある機材導入でした。
機材協力:くつした企画