SONY MDR-CD900ST 改造 #1
使いやすさを優先した自分仕様のヘッドホン

折りたたみ式スライダーへの交換と厚手イヤーパッドの装着

2017.8.15作成

日本の定番ヘッドホン SONY MDR-CD900ST

知る人ぞ知る、SONY MDR-CD900ST。1989年に業務用として販売が開始され、25年以上経った現在も現役の機種です。1980年代といえば、音楽パッケージメディアがアナログレコードからデジタルのCD(コンパクトディスク)に移り変わったころ。赤いラインに大きく書かれた「for DIGITAL」の文字が、時代を感じさせます。

画像1-1 SONY MDR-CD900ST(手前)とaudio-technica AT-HA26D(奥)

私がMDR-CD900STを使い始めたのは、およそ15年前。聴きやすい音質の素敵なヘッドホンですが、イヤーパッドが薄いので耳たぶがドライバーに当たり、使い心地はあまりよくありません。

もう一つの定番 SONY MDR-7506

MDR-CD900STの「赤いライン」に対して「青いライン」のシールが貼られたMDR-7506。こちらも15年ほど使用しています。MDR-CD900STと比べると中高域が強めで、上品に表現すれば「明るくクリアな音」といえますが、正直なところ少々うるさく感じます。

音質は好みと少し異なりますが、MDR-CD900STよりイヤーパッドが厚いので装着感は良好です。カールコードや折りたたみ式の構造、そして3.5mmミニプラグ(2ウェイタイプ)の採用など使い勝手も良く、屋外用と屋内用に2台用意して効果音録音やビデオの同録用に重宝しています。

画像1-2 SONY MDR-7506

SONY MDR-7506に代わるヘッドホン選び

一番使用頻度が高いMDR-7506は、雨で濡れたり落としたり機材ケースの下敷きになったりと、過酷な扱いを受けてきました。錆びや歪み、ヘッドクッション表面の細かいひび割れなど、劣化が進んでいます。傷んだパーツを交換することもできますが、音質が少々好みと異なることもあって、他機種に買い換えることにしました。

実は数年前、2台のうち屋外用が不調になったので(のちに修理して予備機として復帰)室内用のMDR-7506を屋外用にし、代わりにMDR-Z1000を導入していました。MDR-Z1000は装着感がとてもよく、少し低域が強めに感じるものの音質も好みのタイプです。しかし私にはとても高価なヘッドホンなので、買い足して気軽に屋外で使う予算も勇気もありません。

画像1-3 SONY MDR-Z1000

色々考えた末に原点に立ち戻り、MDR-CD900STを選択することにしました。補修パーツが容易に入手できるので、万が一壊してしまっても自力で修理でき、長く使うことができるのは大きな強みです。

イヤーパッドが薄く耳がドライバーに当たってしまう問題は、厚いイヤーパッドに交換することで解消します。MDR-7506用のイヤーパッドも使用できますが、昨年のプロ音響機器展で知ったYAXIのSTPADを使ってみることにしました。STPADを取り付けたMDR-CD900STを試用させていただき、装着感の良さは体験済みです。

そして使い勝手を向上させるため、MDR-7506の補修パーツ(スライダー)を組み込んで、折りたたみ式に改造します。業界内やヘッドホン愛好家にはよく知られていることですが、MDR-CD900STとMDR-7506の補修パーツは、入れ替えて使用できるものが多くあります。

画像1-4 SONY MDR-CD900ST(左)とMDR-7506(右) スライダーの比較

純正以外のパーツを使用することで、MDR-CD900ST本来の性能(音質)は失われます。もともと、コンシューマー向けのMDR-CD900(1986年発売)を音楽スタジオ向けに調整・改良したものがMDR-CD900STですが、その過程で折りたたみスライダーが固定式となり、イヤーパッドは薄くなりました。今回の改造はそれを元に戻す方向になりますので、MDR-CD900STの開発者さんには少し申し訳ない気分でもあります。

熟慮の末、現在所有しているMDR-CD900STは改造せずにメンテナンスするだけにとどめ、新たにMDR-CD900STを購入して改造することにしました。

MDR-CD900ST 新旧比較

今回もヨドバシカメラ札幌店で購入してきました。15年前は無地の白い箱に入っていましたが、今回は茶色の箱でした。購入時に、店員さんから無償保証期間が無いことを念押しされます。

画像1-5 MDR-CD900STの外箱(左)と、箱から出したばかりの本体(右)

これまで使用してきたMDR-CD900STは、購入当時よりもだいぶ装着感が悪くなってました。耳とイヤーパッドの間に隙間ができ、低域が抜けてしまいます。引越しのどさくさでダンボール箱に詰め込んだまま長期間放置したときに、歪んでしまったようです。そこで、新しく購入したMDR-CD900STと見比べて、どこに問題があるのか確認しました。

画像1-6 約15年前に購入したMDR-CD900ST(左)と今回購入したMDR-CD900ST(右)

比べてみると一目瞭然で、ヘッドバンドが若干変形しており、更にスライダーの湾曲が緩くなって側圧が弱くなっていることがわかりました。

応急処置として歪みを手で修正し、それぞれの音を比較してみました。側圧が同じにはならなかったため、わずかに中低域の聞こえ具合が異なるようにも感じましたが、気のせいかもしれません。私の耳で聞く限りでは、ドライバーやハウジング内の詰め物などの音に関わる部品の交換は、必要なさそうです。

幸い、折りたたみ仕様への改造で純正のスライダーが余るので、それを流用することにしました。

(余談)
新しいヘッドホンは、「エージング(しばらく音楽や何かしらの音を出して、慣らし運転すること)」をしないと本来の性能が発揮されないという意見もあります。しかし私は、ヘッドホンの薄くて軽い振動板の特性が、数十時間程度のエージングで耳でわかるくらい変わることはないと思っています。人間側の順応による聞こえ方の変化の方がはるかに大きいと思います。とはいえ、音は「脳で聴く」ものなので、エージングという行為によって音がよくなったと感じることは十分にあると思いますし、そこが趣味のオーディオの愉しみでもあります。
(余談おわり)

細かい部分を見比べると、この15年の間に若干の仕様変更があったことがわかりました。MADE IN JAPAの刻印がシールに変わり、ネジの色は黒から銀に、ハウジング横の穴は真円から楕円に変更されてます。

画像1-7 約15年前に購入したMDR-CD900STと今回購入したMDR-CD900STの相違点

MDR-CD900ST スライダーとイヤーパッドの交換

【おことわり】
この改造は初めて行なったので、作業に集中するために写真をほとんど撮っておりませんでした。以下の説明では、新しいMDR-CD900STから取り外したスライダーを古いMDR-CD900STに移植する作業を撮影した写真を主に使用しています。また、写りの良さを重視して写真を選んだので、左右の作業がバラバラに並んでいます。あらかじめご了承ください。

今回使用した材料は、全てヨドバシカメラ札幌店で購入しました。本体以外はお取り寄せになりましたが、数日で入荷しました。

表1-1 MDR-CD900ST 改造用パーツリスト
品名 数量 備考
MDR-CD900ST 1個 ヘッドホン本体 完成品
スライダー(L)ASSY (X-2113-101-2) 1個 MDR-7506用 (対応機種 MDR-V6と表記)
スライダー(R)ASSY (X-2113-102-2) 1個 MDR-7506用 (対応機種 MDR-V6と表記)
YAXI STPAD-DX-LR 1組 MDR-CD900ST向け 青・赤のセット
画像1-8 用意した材料

左右で仕様が異なる部品があり、一気にバラバラに分解すると頭が混乱しそうなので、片側ずつ作業を行いました。

手順1

まず、画像1-9で赤丸で示した部分(ハンガー蓋)のネジを外して、スライダーからハンガーを取り外します。

画像1-9 ハンガー蓋

手順2

次に、画像1-10で赤丸で示した部分(クリックケース蓋)のネジを外します。クリックケース内には、スライダーを動かすときにクリック感を出すためのスチールボールとスプリングが入ってます。

画像1-10 クリックケース蓋

クリックケース蓋をそっと取り外し、あとで組み立てる際に困らないように構造を十分に確認します。
構造をしっかり覚えたら、画像1-11で赤丸で示した部分の黒い樹脂製の部品(クリックケース)を引き抜きます。この部品にスプリングとスチールボールが組み込まれているので、ゆっくり、慎重に取り外します。

画像1-11 クリックケース

画像1-12で赤矢印で示した部分に、スプリングとスチールボールがあります。

画像1-12 クリックケース内のスチールボールとスプリング

手順3

ヘッドバンド(クッションと内部の2本のバンドで構成されている)から、ゆっくりスライダーを抜き取ります。横を通るケーブルに引っかからないように注意します。

画像1-13 手順3完了後の様子

手順4

取り外したスライダーについている黒い樹脂製の部品(ヒンジケース)を外し、これから取り付ける折りたたみ式スライダーの同じ部分(ヒンジ)に取り付けます。

画像1-14 ヒンジケース (MDR-CD900STにはヒンジがありませんが、MDR-7506に倣ってヒンジケースと表記します)

MDR-CD900STのスライダーとMDR-7506のスライダーを比較すると、後者の方が湾曲が強くなっています。そのため、交換後は側圧が強くなると考えられます。

画像1-15 MDR-CD900STのスライダー(手前)と折りたたみ式のスライダー(奥)

手順5

ヒンジケースを取り付けた折りたたみ式のスライダーを、ヘッドバンドに差し込みます。手順3と逆の要領です。横を通るケーブルを傷つけないよう注意し、クッション内の2本のバンドをスライダーに正しく通します。途中で引っかかったりスムーズに入ってゆかないときは、無理に力を加えて押し込むようなことはせず、一旦引き抜いてやり直します。

画像1-16 スライダーの取り付け

手順6

手順2と逆の要領で、クリックケースを取り付けます。スプリングとスチールボールが落ちないよう気をつけながら、2本のバンドを画像1-17で矢印で示した部分に差し込みます。このとき、クッションの端がクリックケースからはみ出さないようにします。

画像1-17 クリックケースの取り付け

クリックケースをバンドに通して取り付けたら、クリックケース蓋を閉じてネジ止めします。あとは、手順1の逆の手順でハンガーをスライダーに取り付けて完了です。

画像1-18 折りたたみスライダーへの交換が済んだMDR-CD900ST

引き続き、イヤーパッドを交換します。イヤーパッドは、軽く引き剥がすように引っ張ると簡単に外れます。今回は新品のMDR-CD900STを使用しているので劣化した部品はありませんが、長期間使用したものはウレタンリングが劣化していることがありますので、その場合は交換します。

画像1-19 MDR-CD900STのイヤーパッドを取り外した状態

MDR-CD900ST純正のイヤーパッドとYAXIのSTPAD-DXを比較してみました。STPAD-DXの方が、メッシュの密度が濃いようです。

画像1-20 MDR-CD900ST純正品(左)とYAXIのSTPAD-DX(右)

YAXIのイヤーパッドは、純正のイヤーパッドと同じ方法で取り付けできます。
(参考: MDR-7506イヤーパッドの交換

画像1-21 未改造のMDR-CD900ST(左)と、改造したMDR-CD900ST(右)

以上で、スライダーとイヤーパッドの交換は完了です。改造後の音質は、やや低域が聞こえやすくなり、中高域がほんのわずかに控えめになった印象です。音の傾向は、MDR-Z1000に少し近づいたように思います。期待通り、装着感はとてもよくなりました。

古いMDR-CD900STのスライダーも交換し、新品と同じ使い心地に戻りました。

次回は、6.3mm標準プラグを3.5mmミニプラグに交換する予定です。

機材協力:くつした企画

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