動画コーデックの選択
フレーム内圧縮とフレーム間圧縮
フレーム内圧縮とフレーム間圧縮
広角レンズで撮影した風景です。画面の半分程度を空が占め、あまり複雑ではない映像です。比較的圧縮しやすい映像と言えます。
画面左上のグラフィック部分が含まれるように一部をトリミングし、ニアレストネイバー法で200%に拡大して各コーデックの画像を縦に並べました。一番上はマスター素材です。
一目で劣化がわかるのはHDCAMですが、その理由については後述します。
このようなシンプルな映像ではどのコーデックも圧縮による劣化は目立ちません。粗探しをすると、元素材にある粒状ノイズの再現性や画面下部の草地の描写はビットレートの高いコーデックの方が優れており、一番ビットレートの低いXDCAM EX 35は細かい粒子感や細部の精細感が少し失われ、のっぺりとしたイメージになってます。 ProRes 422 LTには、少しモスキートノイズが見られます。
ついに2016年3月末を目途としてVTRとカムコーダーが販売終了となることが発表されたHDCAMですが、放送用途でまだまだ現役で使用されています。HDCAMは10bit4:2:2ベースバンド信号を8bit3:1:1に帯域制限をしてからイントラフレーム圧縮を行い、1/2インチの磁気テープに記録しています。具体的には、輝度信号は横幅1920ピクセルから1440ピクセルに、色差信号は幅960ピクセルから480ピクセルに縮小していることになります。再生時に拡大して、10bit4:2:2ベースバンド信号(VTRの設定で8bit出力も可能)として出力します。
細かい人工的なグラフィックは、帯域制限による劣化が特に目立ちます。マスター素材のグラフィック部分はHDCAMにとっては不利な素材であり、一目で劣化していることが分かります。色差信号の帯域制限の影響で、細かい格子模様の色が正しく再現できていません。
文字の輪郭を見ると、偽輪郭が確認できます。圧縮に伴うモスキートノイズかと思われるかもしれませんが、「TEST」の文字に着目すると輪郭の水平方向に平行に付加された信号であることが分かります。これはHDCAMコーデック処理内で付加された輪郭強調と推測されます。 拡大して見ると不自然な輪郭強調信号ですが、帯域制限に伴う解像度の低下を補い、視覚的な解像感を維持するために役立っていると考えられます。自然画におていては、帯域制限による劣化は目立ちません。
グラフィック部分を見るとHDCAMより断然きれいなXDCAM EX 35は、自然画の精細な部分の描写が甘くなりがちで、ややのっぺりとした雰囲気です。映像全体で見るとHDCAMの方がメリハリが感じられ、良い印象を受けます。
一部では、HDCAMの帯域制限が槍玉に挙げられ、「HDCAMはフルHDではない!」とまでいわれることもあるようです。しかし映像の品質は記録部分の解像度だけで決まるものではありません。民生用のAVCHDカメラは1920x1080のフルHD記録が主流となっていますが、得てしてHDCAMカムコーダーで収録した映像の方が解像度が高く見えるものです。
ここで、HDCAMの名誉を守るためのクイズです。画像2-3のような、平凡な映像にて、マスター映像とHDCAMの録再映像を比較します。
画像2-4は、マスター映像とHDCAM映像から一部をピクセル等倍で切り出した画像を、上下に並べたものです。AとB、どちらがHDCAMでしょうか?
簡単には分からないと思いますが、いかがでしょう。正解は、次のページ後半です。