HXR-NX3 予想外のアップデート
XAVC S HD記録が追加

圧縮ノイズが少ない収録が可能に

2015.11.28作成 2015.12.5加筆・修正

このページでは、カメラ本体表示に準じてフレームレートの小数点以下を切り上げて表記します。
初稿掲載時、ビットレート表記の数値にカタログ値を使用していました。SonyのAVCHD記録におけるビットレート表記のうち、PSモード28MbpsとFXモード24Mbpsは最高ビットレートですが、それ以外のモード(FHモード17Mbps)やXAVC S 50Mbpsは平均ビットレートです。平均ビットレートに統一するため、PSモードは25Mbps、FXモードは21Mbpsに表記を修正いたしました。(2015.12.5)

HXR-NX3

HXR-NX3は、私のお気に入りのカメラの一つです。主に自主制作の用途で、稀にお仕事で、Web向けの映像コンテンツやイベント記録に使用しております。 フォーカス・ズーム・アイリスを独立した3連リングで操作でき、業務用途で必要とされる最低限の操作性が確保されています。画質を追求したモデルではありませんが、フルHDの3CMOSセンサーを搭載しており、きちんと撮ればきちんと写る良いカメラです。

自主制作映画といえば、最近ではすっかり一眼カメラなど大判撮像素子による撮影が定番になりましたが、ドキュメンタリー系の撮影ではNX3のような「普通のビデオカメラ」が便利なことも多くあるように思います。

画像1 ワイドコンバージョンレンズとステレオマイクを装着した、行事記録仕様のHXR-NX3

そんな便利なNX3ですが、少しだけ残念に思っていたところがありました。それは最高画質で約25Mbps(60p)又は約21Mbps(24p〜60i)のAVCHD記録しか搭載していないことです。被写体の動きや照明の変化が激しいイベントや、さざ波の立った水面のような複雑な絵柄のシーンでは、少し破綻が目立ちます。 最近では数万円程度の家庭用ビデオカメラやアクションカムですら約50Mbpsで記録できるXAVC Sが搭載されており、AVCHDのみのNX3には少々物足りなさを感じていました。

とはいえ、NXCAMはコンシューマ向けのAVCHDを業務用カメラに搭載した廉価なシリーズなので、AVCHD記録にケチをつけるのは御門違いです。どうしてもAVCHDの圧縮ノイズを避けつつNX3のトーンで撮影したいときには、外部レコーダーを接続してProResコーデックにて収録をしていました。

画像2 HXR-NX3に外部レコーダーを取り付けて撮影した例

昨日(2015年11月27日)公開されたNX3のアップデートは、良い意味で寝耳に水でした。XAVC Sの50Mbps記録であれば、大抵のシーンで必要十分な品質が得られます。

AVCHDとXAVC Sは、双方ともコーデックは8bit 4:2:0 H.264であり、異なる点はラッパー(MTSかMP4)とビットレート程度です。技術的にNX3へXAVC Sを搭載することは難題ではなかったのかもしれませんが、それでも無償で機能を追加してくれることは嬉しいものです。

アップデート

NX3のファームウェアアップデートは、NX3本体をパソコンにUSB接続した状態で行います。詳しい手順はファームウェアアップデーターに同梱されている説明書に記載されてますのでここでは割愛しますが、他の多くの機器と同様、アップデート中の電源切断やケーブル外れは故障の原因になるので、慎重に作業する必要があります。

アップデート後は記録ファイルフォーマットにXAVC Sが追加され、HDMI出力の設定にタイムコードと録画トリガーの項目が追加されます。カメラ内記録の品質が向上しただけではなく、外部レコーダーを使用する際の利便性も向上しています。また、アップデートの内容には動作安定性の向上も含まれているそうです。

画像3 HXR-NX3 アップデートで追加された記録モード
画像4 HXR-NX3に追加されたXAVC Sフォーマットのフレームレート
画像5 HXR-NX3に追加されたHDMI重畳タイムコードと録画トリガーの設定

XAVC Sの魅力

AVCHDとXAVC Sは、どちらもコンシューマ向けフォーマットです。Long GOP, 8bit, 4:2:0記録で、ラッパーには汎用性の高いMP4が採用されています。10bit, 4:2:2記録が可能でMXFラッパーが採用されたプロフェッショナル向けフォーマットのXAVC-I(Intra)やXAVC-L(Long GOP)とは差別化されています。とはいえ、テレビ放送やBlu-rayなどのパッケージメディアは8bit 4:2:0記録であり、クロマキー合成や大幅に色調を変える処理を必要としないならば8bit 4:2:0記録で十分です。放送局の取材フォーマットとして、8bit 4:2:0 MPEG2記録のXDCAM HD 35(1440x1080 60i 35Mbps)を採用している例も少なからずあり、実用的な品質で電波に乗せられています。

XAVC Sは24p、30p、60pそれぞれのフレームレートにて約50Mbpsで記録されます。AVCHDの約2倍のビットレートです。24pと30pでは、Long GOP圧縮の50Mbpsであればほとんどのシーンで破綻なく記録ができると考えられます。60pについても、実用的には十分な品質を保てることが予想できます。

一つ残念なのは、XAVC Sには放送用途などで最も使われる1080/60iが規格として存在していないことです。勝手な想像ですが、上位機種のXDCAMシリーズに搭載されるXAVC-Lとの差別化という意味があるのかもしれません。Webやサイネージ、パソコン、モバイルデバイス向けの映像制作では、インターレースで記録するメリットは皆無なので、そういった用途では60i記録の有無は気にならないと思います。

60pで撮影した素材は、多くの編集ソフトで容易に60iへ変換することが可能です。Adobe Premiere Pro CC 2015であれば、1080/60iのシーケンスに乗せるだけです。60pから60iへ変換すると半分情報を捨てることになりますので、単純に考えるとビットレートの半分はムダになってしまいます。プログレッシブとインターレースでは圧縮効率の違いなどがあり単純比較できませんが、AVCHD PS 25Mbps 1080/60p記録した映像を60iに変換した映像は、AVCHD FH17Mbpsで記録した1080/60i映像に近い印象です。XAVC S 50Mbps 1080/60p記録の素材から60iへの変換ならば、AVCHD FX 21Mbps 1080/60i記録と同等かそれ以上のクオリティが得られる可能性があります。

なお、60p収録素材を60iへ変換した場合、ディテール信号の違いなどにより60iに設定したカメラで収録した映像とは質感に差が出る可能性があります。 テレビで視聴時に被写体の細かい横線にちらつきが出るなどの現象が考えられますが、NX3では気になりませんでした。

インターレース映像は拡大・縮小による劣化が激しいため、60pで収録しておくことで若干のトリミングやスタビライズへの耐性が増します。放送局や制作会社内の決められたワークフロー内で安易に60p収録を採用するのは難しいかもしれませんが、個人の制作物であれば積極的に60p収録を活用しても良いと考えています。将来的に4K60p作品の中に素材として使用することになった場合にも、厄介なi/p変換は不要で拡大処理だけで済みます。

また、個人用途であれば完パケも60pで保存する方法も選択肢の一つです。Adobe Premiere Pro CC2015.1にはXAVC-L(4:2:2, 10bit, 50 or 35 or 25Mbps)による書き出し機能が追加されましたので、ローコストで完パケを保管することができます。

余談ですが、50MbpsといえばSD解像度のDVCPRO 50と同じビットレートです。圧縮技術の進歩を感じます。

 

機材協力:くつした企画

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